I want to hear voice.
―――いつも、そこに貴方は居たね。
いつでもパソコンのとにらめっこ。
貴方の依頼で、あたしがコーヒーを持ってそこを訪ねると。
『遅い。5分以内に持って来いと言わなかったか?』
って、憎まれ口を叩かれるのはいつものことで。
けれどその口調は決して嫌味な感じではなくて、意外に優しい声音だったりするから。
そんなふうに言われても悪い気はしなくて。
もう数えるのも億劫になるくらい何度も訪れた一哉くんの部屋の机の上には仕事関係の資料が散乱してる。
何を調べていたのやら、持ち上げたら凄く重そうな分厚い専門書は、ページを開いたままで閉じられる事はない。
・・・・閉じられるわけがなかった。
この部屋の主であり、この専門書の持ち主である一哉くんは―――消息不明だ。
一哉くんが交通事故に遭遇した、という第一報がテレビで流れてから、もう一週間が経とうとしていると言うのに。
本人からの連絡は一切ない。
せめて一哉くんの側近の秘書の人からの連絡ぐらいはあっても可笑しくはないと思うのに、それすらない状態で。
考えれば考えるほど、どうしても悪い方へ、悪い方へと考えてしまって。
不安感を拭い去るように、あたしは家政婦の仕事に没頭してる。
だって、忙しくしてないと。
―――泣きそうになるから。
一哉くんが、事故に遭ってから、ずっと。
身体は疲れているのに、ベッドに入るのが怖くて、眠れなくて。
家政婦仕事は体力勝負なのにこんな状態だから、あたしは凄く困ってる。
―――だって、嫌な夢ばかり見るから。だから、眠るのが怖くて仕方ない。
人って不安な思いを抱えていると、それが夢となって現われるんだね。
考えたくもない状況が、夢となってリアルに再現される度に、泣きたくなる。
でも、あたしが泣いていたら、一哉くんがここに戻って来た時に、きっと怒られちゃうから。
だから・・・・・、泣けない。
『・・・・何泣いてるんだよ、馬鹿』
って、きっとそう言われちゃうから。
あれ・・・・、どうしてかな。
一哉くんの部屋に来たら、何だかほっとして、眠くなって来ちゃった。
きっと、今夜も使われる事のない、主のいないベッドの上。
皺ひとつない真っ白なシーツの上に、ころん、と寝転がって。
微かに感じた一哉くんの残り香に包まれて、あたしはそっと、瞳を閉じた。
―――早く、帰って来て?
そして、その低くて、あたたかな声を聞かせて?
『俺は元気だから。・・・・そんなに心配するんじゃない』
そう言って、あたしを安心させて?
そうしたら、あたしは言うから。
「・・・おかえりなさい、一哉くん」
って。
心を込めて。
きっと言うから―――。
中泉の企みで事故に遭遇した一哉くんを待つ
むぎちゃんの心情は、こんな感じではなかったかと。
一哉くんの部屋で、うっかり寝てしまったむぎちゃん。
ゲームでは、その後、一哉くんが帰って来るんでしたよね。
そのシーンをプレイしていて、浮かんで来たSSです。
少しでも、切ないむぎちゃんの思いが
伝われば幸いです。